文字の読めない人々をも夢中にさせた小説家

19世紀に生きたアレクサンドル・デュマは、『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』を新聞小説の中で生み出し、貧困層から貴族に至るまで絶大な人気を博した小説家である。
それまで新聞を読むのは教育を受けることができた中流か上流階級の人々であったが、彼の小説が新聞に載ってからというもの、「今日のダルタニヤンはどうなったの?」と続きを待ちわびるあらゆる層の老若男女を大量に生んだ。

『三銃士』挿絵

Gravure de Maurice Leloir 1853-1940 Coll. de la Societe des Amis d’A. Dumas

新聞の1コマという限られた枠のなかで、毎日ドキドキさせ、「続く……」を期待させるそのストーリー展開はデュマにしかできない技量によるものだったようだ。
デュマはいつしか1作品を日本円でいう数億円単位で請け負うほどの文学界のスーパー・ヒーローになった。

「エンターテイメント小説の誕生!」というわけだが、その読者層の多くは、新聞を買う金などあるはずもなく、もっといえば文字の読めない人もデュマのファンになるという面白い現象……。フランスの初等教育が義務化され、貧しい人々も文字を読めるようになった時代は、デュマが死んだ後にやって来るのだ。

実は文字が読めなくても、物語を楽しむことができる。読み聞かせ、口承という昔ながらの方法で。
文盲の老若男女に耳から小説を吸収させた人たちがいた。それは、アパルトマンの門番やその女房たちであった。門番は手紙の宛名を読めることが必須の職業で、小遣い稼ぎに人々を集めて新聞を朗読していたというのである。

劇作家上がりのデュマの真骨頂

デュマは貧しい出とはいえ、読み書きができたためか書記官の仕事を経て、パリ郊外のヴィレル=コトレから無一文でパリに上京した。やがて劇作家としてデビューすることになる。
舞台上の俳優たちの台詞ひとつで観客を引き込ませなければならない演劇の世界。主人公の性格や時代背景、環境など、すべて台詞回しでやりきらねばならない。デュマは数多くの作品を生み出し、観客の反応を見て、人心をつかむ術を実戦でその身に叩き込んだ。

「文学」というと書物や書き文字を連想するが、それを劇作に転じれば、台詞回しでの展開により、耳から入る言葉の理解さえできればOKという世界に変わる。読み書きなどできなくとも、また、短時間のなかでも、人を夢中にさせることができるというわけだ。
デュマはそのテクニックを長編の歴史小説に持ち込むという独自の作風を確立し、新聞小説をけん引する時代の寵児となったのだった。

小説工場

デュマは通常ではあり得ないほどのスピードで書き上げ、小説を大量生産した偉丈夫、超人で知られる。しかも、ヒットメーカーであった。
人々はそんな彼を「小説工場 アレクサンドル・デュマ会社」と呼んだりもした。

彼の冒険小説や復讐物語は、2時間ほどで終わるような劇作とは違って、かなりの長丁場、長編である。そして、歴史ものであるために、実在の人物らの事実背景やネタなどの調査は必須だ。デュマは、歴史教師だったマケを筆頭に、資料収集から下書きまでを任せ、また何人もの下書き担当を抱えて数々の依頼を乗り切っていた。
分業というやつである。
「盗作」とか「小説生産工場」のような揶揄にも溢れていたが、やはりその下書きをヒット作に生まれ変わらせることができたのもまた、デュマの才能に違いなかったといわれている。

CHATEAU MONTE CRISTO(シャトー・モンテクリスト)

大ヒットの量産、世界の旅行記、『料理大辞典』の編纂、莫大なギャラ。
当然のごとく、ヒットメーカー・デュマは「パリの王様」となった。
彼が唯一本気で書いたと言われている『モンテ・クリスト伯』では主人公エドモン・ダンテスがパリに構えた豪邸があるが、それになぞらえてデュマは自分のための豪邸「シャトー・モンテクリスト」をパリ郊外に建築し、湯水のように大金を使った。
王様時代は長く続かず、浪費癖から首が回らなくなり、ついにデュマは無一文になる。

シャトー・モンテクリストは公開されている

デュマが建て、競売にかけられて他人のものになったシャトー・モンテクリストは、紆余曲折を経て現在デュマゆかり歴史的モニュメントとして保存・公開されている。
http://www.chateau-monte-cristo.com/

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アクセス

サン・ラザール駅からSNCFでマルリー・ル・ロワ(Marly le Roi)駅下車。
サン・ラザール駅では、危うく別の路線に乗り間違うところだった。必ず乗り場を確かめて行くほうがよいと思う。
マルリー・ル・ロワ駅からバスに乗る。詳しくは下記サイトを参照のこと。
地図はプリントアウトされることをオススメする。
http://www.chateau-monte-cristo.com/main/en/acces/

参考:『週刊 朝日百科 世界の文学16』

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デュマ

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