国語の教科書にでてくるキツネの物語 その 2

十年ほど前、『1度は読みたい10の名作短編集』という書籍をコンビニで見かけ、まったくの気まぐれで時間つぶしのために買った。その中で最も読後感が凄すぎて、ナンバーワンにあげたのが『ごん狐』である。

名作短編集

『ごん狐』は言わずと知れた小学校の国語の教科書によく出てくる、印象深い童話である。作者は新見南吉で、戦後になって高く評価された作家だ。小学4年生の教科書に登場して60年以上というから、戦後生まれの人々にとって、共通の話題となるかもしれない。(教科書でのタイトルは『ごんぎつね』らしい)
『ごん狐』では、江戸時代から明治期あたりの寒村の様子や日本の四季が豊かに描かれており、大人になって読み返すと、新見南吉の素晴らしい世界観に引き込まれる。と同時に、なんとも心が苦しくなるような人生の哀歓がつづられている、まさに傑作なのだ。

はて? タイトルはピンと来るけれど、「どんなストーリーだったっけ?」という方のために簡単なあらすじを書く。

『ごん狐』あらすじ

いたずら好きの子ぎつね「ごん」が、あるとき兵十という男が仕掛けて獲ったうなぎや魚を食い散らかして悪さをする。
兵十を怒らせて「してやったり」と喜ぶが、間もなくして兵十のおっ母の葬式を見ると、「うなぎを食べたい」と病床で願ったおっ母のために兵十がうなぎを獲りに行ったのに、その邪魔をして、おっ母はそのまま死んだのではないか、と反省する。

そこでひとりぼっちになった兵十のために、ごんはイワシ売りからイワシをかっぱらって兵十の家に投げ入れてプレゼントしたのだが、あとで兵十がイワシ売りに殴られてしまう。兵十が知らぬ間に盗人になったことでエライめに遭わされたことがわかり、ごんは再び反省。

「それならば」とごんはこっそり栗やマツタケを兵十に毎日届けるのである。それを知らぬ兵十は、あるときごんがこっそり家の中に入ってきたのを見る。「またいたずらをしに来たな」と火縄銃に火薬をつめて「ドン」と撃つのだ。倒れたごん。土間には栗が。

「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」

栗の木

新見南吉が言いたかったこと

大人になってから読むと、「我々は小学生時代に、こんなハイレベルな内容を読んでいたのか」と驚かされる。描写の一つ一つは簡単であるが、この読後感の奥深さといったら……。当時の私はどこまでこのエッセンスを汲み取れていたのだろうか。

「ごんはいいことしたのに、殺されちゃって。でも兵十は知らなかった。う~ん……」程度の理解であったろう。
小学生の教科書で初めて挑む長文がこの『ごん狐』らしいから、理解力や想像力のまだ育っていない子どもにとっては答えのない、結論のはっきりしない物語のどこにフォーカスすべきか迷うことだろう。そして、それぞれが何を思おうと「正解」を示さないという方針で授業が進められているような気もする。各々が想像すること、相手の気持ちを慮り、意見を持つことがテーマのようでもある。

「償い」をテーマに授業が進められたりもするらしい。が、新見南吉が言いたかったのは償いだろうか? また、お互いひとりぼっちになったという「共感」だともあるが。
償ったけど、報われなかった? それかなぁ。

結末で「ドン」と撃たれてぐったりしたごん。その姿が浮かんだが、果たしてそれは……自分のようにも思えたのだ。もしかしたら、私の頭の中では、撃ったほうも撃たれたほうも自分自身として見えていたのかもしれない。

あぁ、なんてこと……。

無言の善意、その果てに

善かれと思ってあれこれしたことが、相手には伝わらない。または別の伝わり方をするというのは、よくある話ではある。

私たちは超能力者ではないので、いい大人になってなお、相手が何を思っているのかなかなかわからない。それが現実である。
何かあって「そんなつもりはなかった」と心の中で叫ぶのは、いたずら好きの子ぎつねだけではあるまい。いや、言葉を発する人間こそ、「違うのに」「そうじゃないのに」と胸の内でつぶやき、なかなか声にして説明しようとしないものだ。

そして、その説明できなかった心苦しさから、なんとか挽回しようとして、あれこれやってみるものの、適切な説明をして相手に面と向かって言葉で表現するという以上の結果はとんと得られないもの。それがふつうではないだろうか。
私たちは、この『ごん狐』の行動に「バカだな、お前」とか言いながら、「でも、わたしだって、たいして変わらないわな」としょんぼりさせられる。

新見南吉 「わかったぞー! 人間て、バカなんだ~」
ごん狐  「子ぎつねとほとんど変わらんべさ」
新見南吉 「んだ。どうしようもない、愛すべきアホなんだわ、きっと」
ごん狐  「ちげぇねぇ」
新見南吉 「ワシは、それでも人間を愛そうと思う。バカな人間も、『成長なんかしていない!』って言ったって、筍のフシと一緒と思うんだよ。パッと見『ちっとも成長してない』と思える筍も、真横からジーっと見てたら、ちょっとずつ上に伸びているからね」
ごん狐  「へぇー。さすが人間様だ。しゃあない、気長に待ってみるか」

 

>>心に残るキツネの物語【1】『きつねの窓』